英語を勉強していると、こんな疑問を感じたことはありませんか。文法は分かっているのに、いざ話そうとすると言葉が出てこない。ネイティブの会話を聞くと、簡単な内容のはずなのに「なぜか聞き取れない」と感じる。あるいは、教科書どおりの英文をそのまま話しているのに、どこか不自然に思える。
実はそれ、あなたの努力不足ではありません。原因のひとつは、「教科書で学ぶ英語」と「実際に話されている英語」が、少し違うルールで動いていることにあります。書き言葉を基準にした文法だけでは、リアルな会話のしくみは十分に説明できません。会話には、会話ならではのパターンや特徴があるのです。
この記事では、Spoken Grammar(話し言葉の文法)という考え方をもとに、「話し言葉とは何か」「会話にはどんな特徴があるのか」「なぜそれを知ると話しやすく・聞き取りやすくなるのか」をわかりやすく整理します。英語の先生にも、学習中の学生や大人の方にも、「なるほど、だからだったのか」と思ってもらえる内容をお届けします。
英語の話し言葉(Spoken Grammar)とは

英語にも「話し言葉専用のルール」がある
Spoken Grammar とは、会話で実際に使われている英語のしくみを指します。
学校で学ぶ英文法は、主語+動詞がそろった整った文を前提にしています。しかし会話はその場で即座に作られます。考えながら話し、相手の反応を見ながら調整します。そのため、書き言葉とは異なるパターンが自然に生まれます。
会話では、言い直し・省略・繰り返しなどが頻繁に起こります。これらは誤りではありません。その場で考えながら話すという条件に適応した自然な形です。Spoken Grammar は、この会話特有のパターンを体系として捉える考え方です。
話し言葉に見られる代表的な特徴
話題を先に提示する(Heads)
会話では、何について話すのかを先に出す言い方がよく使われます。
- My brother, he lives in Tokyo.
(私の兄なんだけど、東京に住んでいるんだ。) - That movie we watched last night, it was amazing.
(昨日見たあの映画ね、すごくよかったよ。) - This restaurant, I really like it.
(このレストランね、私は本当に好きなんだ。)
書き言葉なら単純な文で済みますが、会話ではまず話題を提示することで理解しやすくなります。
文の後ろに情報を補足する構造(Tails)
Spoken Grammar の重要な特徴のひとつに、文の後ろに情報を付け足す構造があります。これは Tails(テイルズ)と呼ばれます。書き言葉ではあまり見られませんが、会話では非常に自然に使われます。
たとえば次のような例です。
- It’s nice, this weather.
(いい天気だね、この天気。) - She’s really good at math, my sister.
(彼女、数学すごく得意なんだよ、私の妹。) - He’s funny, that guy.
(あの人、面白いよ。)
まず文を言い切り、そのあとで「誰についてか」「何についてか」を補足します。話しながら思い出した情報を後ろに追加することで、会話を止めずに続けることができます。
日本語でも「おいしかったよ、あの店」や「混んでたよ、昨日の電車」のように後ろから補足することがあります。英語でも同じように、会話では情報を後ろに足すことが自然です。これは文法が崩れているのではなく、リアルタイムで組み立てられる会話特有の構造なのです。
主語や助動詞の省略(Sounds good.)
会話では、共有されている情報はよく省略されます。
- Sounds good.
(いいね。) - Want some?
(ちょっといる?) - Coming?
(来る?) - Any questions?
(何か質問ある?)
状況が共有されているため、短い形でも自然に成立します。
並列でつなぐ(and の連鎖)
会話では「and」を使って順番に出来事をつなげる構造が多く見られます。
- I went home and I ate dinner and I watched TV.
(家に帰って、ご飯を食べて、それからテレビを見た。) - We met at the station and we talked and then we had coffee.
(駅で会って、話して、それからコーヒーを飲んだ。) - I opened the box and I looked inside and I was surprised.
(箱を開けて、中を見て、びっくりした。)
リアルタイムの会話では、複雑な文よりもこの形のほうが自然です。
繰り返し・言い直し
繰り返しや途中での言い直しも自然な会話の一部です。
- I was, I was really surprised.
(私はね、本当に驚いたんだ。) - It was kind of, kind of difficult.
(なんていうか、ちょっと難しかった。) - I went to— I mean, I stayed home.
(外に行った…いや、家にいたんだ。) - He’s— well, he’s not exactly angry.
(彼はね…うーん、怒っているってほどじゃない。)
話しながら考えているため、このような形が自然に生まれます。
談話標識とフィラー(well, you know, uh, um など)
話し言葉には、文の内容そのものではなく、会話の流れを支える語が多く現れます。これらは大きく分けて「談話標識」と「フィラー(つなぎ音)」に分けられます。
- Well, I’m not sure.
(うーん、ちょっとわからないな。) - You know, it’s kind of complicated.
(ほら、ちょっと複雑なんだよ。) - I mean, it wasn’t that bad.
(いや、そんなに悪くなかったよ。) - Actually, I changed my mind.
(実は、考えを変えたんだ。)
これらは談話標識と呼ばれ、話題の転換、修正、強調などを示します。一方で、次のような音も頻繁に現れます。
- Uh… I think we should go.
(えっと…行ったほうがいいと思う。) - Um, let me see.
(うーん、ちょっと待ってね。) - Well, uh, maybe later.
(うーん、えっと、あとでかな。)
「uh」「um」のような音はフィラーと呼ばれます。日本語の「えーと」「あの」に近い役割です。これらは無意味なノイズではありません。考える時間を確保し、会話を途切れさせないための重要な仕組みです。
書き言葉では削除されるこれらの要素も、実際の会話ではごく自然に使われます。Spoken Grammar を理解するとは、このような会話特有の特徴も含めて英語を捉えることなのです。
英語の話し言葉を身につけるには

なぜ Spoken Grammar を身につける必要があるのか
ネイティブの英語が聞き取れるようになるため
多くの学習者が「ネイティブの会話が聞き取れない」と感じます。その原因は、単にスピードの問題ではありません。実際の会話は、省略や言い直し、途中で切れる文などが多く、学校で学んだ「整った英文」と形が大きく異なるからです。
Spoken Grammar を知らないと、ネイティブの話し方は知らない表現のオンパレードだと感じて処理が止まります。しかし、あらかじめ会話では省略や修正が普通に起こると理解していれば、聞き取りは格段に楽になります。聞き取れない原因の多くは語彙不足ではなく、話し言葉の仕組みを知らないことにあります。
流暢なスピーキングを実現するため
多くの学習者は「正しい文を作らなければならない」と思い込みすぎています。その結果、完璧な文を頭の中で組み立てようとして沈黙してしまいます。
しかし実際の会話では、省略も言い直しも繰り返しも自然な現象です。Spoken Grammar を理解すると、「完璧な文」ではなく「伝わる流れ」を優先できるようになります。完璧さよりも流暢さを重視できるようになることが、スピーキング上達の大きな転換点になります。
書き言葉と話し言葉を使い分け、自然な表現をするため
英語には、書き言葉と話し言葉という異なるモードがあります。レポートやメール、試験の記述では整った構造が求められますが、日常会話では必ずしもそうではありません。
この違いを理解せずにいると、会話で不自然に堅い英語を使ってしまったり、逆にフォーマルな文章で話し言葉を使ってしまったりします。Spoken Grammar を学ぶことで、「今どの場面なのか」を判断し、適切に調整できるようになります。これは単なる文法知識ではなく、場面に応じた運用能力そのものです。
Spoken Grammar の身につけ方
Spoken Grammar への理解を深める
Spoken Grammar を身につける第一歩は、話し言葉の特徴を体系的に理解することです。会話が「崩れている」のではなく、「会話として最適化された形」であると理解できるかどうかが、その後の学習効率を大きく左右します。
オススメは、Spoken Grammar 研究の第一人者である Ronald Carter と Michael McCarthy による書籍です。辞書のように網羅的に学習を進めたい方にはこちらがおすすめです。ハードカバーは高いですが、ペーパーバックであれば比較的安価に入手できます。
教科書のように少しずつ学習を進めていきたい方にはこちらがおすすめです。
こうした理論的な背景を知っておくと、実際の音声を聞いたときに「あ、今省略が起きた」「今フィラーが入った」と認識できるようになります。理解は気づきの土台になります。まずは全体像を掴むことが重要です。
オーセンティックな英語に触れる
次に必要なのは、実際に使われている英語に触れることです。教科書の会話文は整理されすぎていることが多く、自然な表現が消えてしまっています。
Spoken Grammar は、実際の会話の中でこそ現れるのでドラマや映画、YouTube、ポッドキャストなどを活用して生の英語に触れる機会を増やしていきましょう。
そのうえで、書き言葉と比較するのも効果的です。書き言葉と対比することで、同じ意味でも形が大きく異なることに気づくことができます。
- 書き言葉:Do you want something to drink?
話し言葉:Want something to drink?
(何か飲む?) - 書き言葉:I was very surprised by the result.
話し言葉:I was, I was really surprised.
(私は本当に驚いた。)
実際に使ってみる
最後は、自分の発話に取り入れてみることです。Spoken Grammar は知識として理解するだけでは定着しません。短くてもよいので、実際に口に出して使うことが重要です。
- Well, I’m not sure.
(うーん、ちょっとわからないな。) - I mean, it wasn’t that bad.
(いや、そんなに悪くなかったよ。) - I went home and I watched TV and I went to bed.
(家に帰って、テレビを見て、寝た。)
完璧な文章を目指すよりも、流れを止めないことを意識します。話しながら修正しても構いません。Spoken Grammar は使いながら体に馴染ませていくものです。少しずつ取り入れることで、会話の自然さは確実に向上します。




























ASAKOROKO
長年にわたり英語教育と試験対策に携わり、英検対策授業やAIを活用したスピーキング練習支援の研究を行っています。学習者一人ひとりが自宅でも効率よく学習を進められるよう、実践的かつ科学的な学習法の紹介を心がけています。