高校教師から大学教員へ 修士号取得後のキャリアパスを解説

修士号を取得した後、次なるキャリアとして大学教員を目指すことを考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

特に文系分野では、博士号がなくても大学教員になることは可能です。しかし、その道のりは一筋縄ではいきません。

本記事では、高校教師から大学教員へのキャリアパスについて、待遇やキャリアの比較、キャリアチェンジの際の具体的な課題と対策を解説していきます。

*高校英語教師を念頭に執筆していますが、教育分野は同様の手法が使いやすいので、小学校や中学校、他教科の先生の参考になるはずです。

目次
高校教諭と大学教員の待遇とキャリアを比較する
大学教員の種類と求められる条件
高校教師から大学教員を目指す際の課題と乗り越え方
JREC-IN Portalでマッチする求人を探す
求人の特徴を押さえる
公募に向けて準備する
面接に備える

*高校教諭から大学教員以外への転職は、別記事で解説しています。

高校教諭と大学教員の待遇とキャリアを比較する

高校教諭から大学教員へのキャリアチェンジを考える際、待遇やキャリア形成の違いを理解することが重要です。それぞれの特徴を比較し、自分にとって何が優先されるのかを整理していきましょう。

どんな人に大学教員がおすすめか

大学教員は、以下のような希望を持つ方に向いています。

  • 収入よりワークライフバランスを重視したい人
    高校教諭と比べ、授業外の拘束が少ない場合が多いため、家族や趣味に費やす時間を増やしたい方に適しています。
  • 今より授業準備や研究時間を確保したい人
    自分の専門分野を深めたり、独自の授業をデザインする余裕を持ちたい方には魅力的な環境です。
  • 安定より自分のキャリアを積み上げたい人
    研究や教育実績を積み上げることで、将来的なキャリアの選択肢を広げ、可能性を自分で掴み取りたい方には大学教員が向いています。

収入の違いについて

高校教諭から大学教員へ転職する場合、収入が下がる可能性があります。高校で教頭や校長を目指した方が、収入面では有利です。また、再現性も高く、収入の見通しが立ちやすいでしょう。

一方で、授業準備や研究の時間が確保される大学教員は、時給換算で見ると高校教諭より有利になることもあります。

労働時間の違い

大学教員の労働時間は、高校教諭と比べて柔軟性が高いのが特徴です。高校教諭では授業に加え、公務分掌や学年業務などが多くを占めますが、大学教員ではそのような負担が大幅に軽減されます。そのため、専門分野に集中する時間を確保しやすくなります。

部活動の顧問がなくなることで、休日や放課後の拘束がなくなり、ワークライフバランスが改善される場合が多いです。

安定性の違い

高校教諭と比較すると、大学教員は雇用の安定性に欠ける点がデメリットです。多くの大学では任期制の求人が一般的で、契約更新が保証されないこともあります。そのため、特に最初のポジションでは不安定さを覚悟する必要があります。

一部の大学では、担当する学生の成績が他の講師と比べて低い場合などに契約が更新されないケースもあります。正直、そうなるともはや学生ガチャです。毎年のように公募を出している大学の場合、働き方や契約条件に問題がある場合もあるため、応募前にリサーチすることが大切です。

キャリアの積み上げ

大学教員の最大のメリットは、自分のキャリアを積み上げられる点です。大学教員としての指導経験は、次の職場へのアピールポイントになります。特に高等教育機関での教育実績が評価される場面では、大きな強みになります。(*英語アドバイザー業務などは授業を担当することがなく、教育歴とならない場合もあるので注意が必要です)

高校教諭では難しい研究活動を継続的に行うことが可能です。学会費も研究費で落とせますし、査読付き論文や学会発表を積み上げることで、専門家としての地位を確立できます。また、大学教員として活動することで、他の研究者や教育者とのネットワークを築けます。これはキャリアの選択肢を広げるきっかけになります。

大学教員の種類と求められる条件

大学教員のポジションは、大きく「研究重視」「教育重視」「運営重視」の3つに分類されます。それぞれに必要なスキルや経験が異なるため、自分の目指す方向性に合ったキャリア設計が重要です。

研究重視のポジション (Research Position)

研究職は、研究活動に重点を置きたい方に向いています。ただし、このポジションを目指すには博士号や査読付き論文の実績が必須条件となります。一般的には以下のような基準が求められます。

  • 博士号の取得:専門性の高い研究能力を証明するために不可欠です。
  • 査読付き論文:最低でも3本以上の査読付き論文が必要とされる場合が多いです。

教育重視のポジション (Teaching Position)

教育職は、実践を重視したい方に適したポジションです。この分野では必ずしも博士号が求められるわけではなく、次の条件が重視されます。

  • 修士号の取得:最低限の学位として必要です。
  • 高等教育機関での指導経験:非常勤講師として大学の授業を担当した経験でも評価されます。
  • 研究論文の実績:査読付き論文であれば望ましいですが、大学の紀要に掲載される論文も含まれます。

教育ポジションの中には、ネイティブ講師を対象とするものもあります。英語を第一言語とすると記載されていたり、そもそも求人がすべて英語で書かれていたりしますので、間違って応募しないように注意しましょう。

運営重視のポジション

大学教員の仕事は、研究と教育だけではありません。大学の運営も仕事のうちです。そのため、研究や教育もそこそこに、大学の運営に重きを置いて募集がかかることがあります。

英語系科目では、国際交流の促進や海外協定校への短期研修の企画・運営・実施実績が注目されることが多いです。

  • 修士号の取得:教育職と同様に修士号は基本条件となることが多いですが、博士号が求められるケースは少ない傾向にあります。
  • 研究論文の実績:必須ではない場合もありますが、教育や運営に関する研究論文があれば有利です。
  • 指導経験:高等教育機関での指導経験があることが望ましいですが、教育職ほど厳しく問われない場合もあります。
  • 大学運営の実務経験:大学や教育機関での運営経験があると、非常に強力なアピールポイントとなります。

運営重視のポジションに関しては、留学経験や国際交流推進支援機関等での勤務経験がある方はアピールできる可能性がありますが、すでに他の大学で同様の業務を行なっている教員が応募してくる可能性も十分にあります。

高校教師から大学教員を目指す際の課題と乗り越え方

高校教諭が大学教員を目指す際のハードル

高校教師が大学教員を目指す際には、以下のようなハードルが存在します。

  1. 高等教育機関での指導経験がない
    多くの大学では、実際に大学生を指導した経験を重要視します。高校教師としての経験は教育力を示すものの、大学での指導経験がないと応募時に不利になる可能性があります。
  2. 研究論文の実績がない
    大学教員の募集要項には、論文の本数が条件として記載されることが一般的です。修士論文や教育現場での実践報告は、評価の対象外となる場合がほとんどです。

ハードルを乗り越える ~現実的なキャリア戦略~

これらの課題を乗り越えるためには、具体的な戦略が必要です。以下の対策を参考にしてみてください。

  1. 教育職に力を入れる大学を探す
    教育重視のポジションを目指す場合、リメディアル教育や英語が苦手な学生への指導に力を入れる大学を探すと採用されやすくなります。短期大学や教育力をアピールする大学も視野に入れると、チャンスが広がります。
  2. 専門学校での指導を視野に入れる
    専門学校での指導経験を積むことで、大学教員としての指導経験に近い形でスキルをアピールできます。この経歴を踏み台にして、次のステップに進むことが可能です。
  3. マッチングを重視した応募を心がける
    大学教員の公募では、大学側の求める人材と応募者の経歴がマッチしていることが重要です。募集要項を詳細に読み込み、特に求められている分野やスキルを明確に理解した上で応募することをおすすめします。

なぜ大学教員の採用ではマッチングが重要なのか

大学教員のポジションを得るためには、他の業界における転職以上に「マッチング」が重視されます。これは大学教員の採用が一般的な雇用プロセスとは異なる特性を持っているためです。

  1. 専門性が非常に高い
    大学教員のポジションは高度な専門性を求められます。英語指導で言えば、ライティング指導とスピーキング指導は別として考えられますし、中にはCLILで授業ができるといったように指導方法を指定してくるケースも考えられます。
  2. 募集人数が非常に限られている
    大学教員の公募は通常、1つのポジションに対して1名のみの採用が行われます。そのため、少しでも条件に合わないと他の応募者に競り負けてしまいます。
  3. 書類審査の厳しさ
    書類審査では、経歴・論文業績・指導経験が詳細にチェックされ、応募者が大学の求める人材像にどれだけ適合しているかが徹底的に審査されます。面接に進めるのはごくわずかで、多くの候補者が書類の段階で不採用となるのが現実です。(逆に言えば、面接にさえ進めれば採用に大きく近づきます)
  4. 適任者がいなければ採用しない方針
    大学の公募では、適任者が見つからなければ「該当者なし」として採用が見送られることも珍しくありません。この場合、ポジションは次年度以降に再度公募されます。そのため、少しでもマッチ度が低い応募者は競争の土俵にすら上がれない可能性があります。
  5. 求める条件はポジションごとに異なる
    大学教員の募集要項には、非常に具体的な条件が記載されることが一般的です。たとえば、「特定の専門分野での研究経験」「指定された科目の指導経験」「学内外でのプロジェクト運営スキル」など、ポジションごとに求められるスキルや経験が異なります。応募者がその条件にどれだけ適しているかが採用の決定要因となります。

JREC-IN Portalでマッチする求人を探す

大学教員を目指す上で、自分のスキルや経験にマッチした求人を見つけることは重要です。その際に役立つのが、「JREC-IN Portal」です。

JREC-IN Portalとは

「JREC-IN Portal(Japan Research Career Information Network)」は、文部科学省と科学技術振興機構(JST)が運営する研究・教育関連の求人情報サイトです。日本国内の大学教員の求人情報を網羅的に提供しており、求職活動に欠かせないツールとなっています。

専門学校や高等専門学校の求人を探すことも可能です。応募書類の提出先や詳細な業務内容も明記されているため、効率的に求人情報を比較検討することが可能です。

外部リンク:JREC-IN Portal(https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekTop)

検索のコツ

効率よく求人を見つけるためには、検索カテゴリを絞り込むのがオススメです。「研究分野」で「人文・社会」を選択します。

さらに「英語学」や「外国語教育」にチェックを入れます。これにより、英語教育に関連する求人に絞り込むことができます。

「応募資格」の欄に注目する

求人を検索したら、真っ先に「応募資格」の欄に注目しましょう。ここに「博士号」と書かれていれば、博士号がなければ書類落ち確定です。

修士号のみを保有する高校教諭の場合、理想は「修士号もしくは同等の実績」といった表現です。

博士号の記載がないということは、研究重視のポジションではなく、教育重視の募集である可能性が高いです。

「望ましい」という表現を重視する

応募資格に「日本の大学等での入学前教育もしくは高大接続に関する経験や業績を有することが望ましい」といったように「望ましい」といった記載がある場合、該当していれば、選考段階で加点され、有利に進められることが想定されます。また、この「望ましい」という表現は、募集者側の本音であることが多いです。

あまり条件を絞ると応募者がいなくなってしまうので「望ましい」という表現にしているか、応募者が多い場合にどのような経歴の持ち主を優遇するかを示していると言え、応募の際に重視すべきポイントです。

求人の特徴を押さえる

大学教員募集の求人には「研究重視」「教育重視」「運営重視」の3つがあることはすでに触れました。ここでは、具体的にどのような求人が該当するのか見ていきましょう。

大学側が求める人材を的確に把握することで、応募段階でのミスマッチを防ぐことができ、時間と労力の節約につながります。

研究重視の求人の特徴

研究重視の求人には、次のような特徴があります。

  • 求人要項に「研究業績」「査読付き論文の本数」などが明確に記載されている
  • 大学院レベルの指導経験が求められる場合がある
  • 公募条件に「博士号必須」や「外部資金(科研費など)の取得実績」が含まれる

▼研究重視の求人の例▼

教育重視の求人の特徴

教育重視の求人には、次のような特徴があります。

  • 求人要項に「教育への熱意」「リメディアル教育の経験」などが記載されている
  • 高等学校や専門学校での指導経験を歓迎する記載がある

▼教育重視の求人の例▼

運営重視の求人の特徴

教育重視の求人には、次のような特徴があります。

  • 求人要項に「国際化推進」「留学業務」「実務経験」などの記載がある
  • 研究業績や教育業績にあまり触れられていない

▼運営重視の求人の例▼

公募に向けて準備する

大学教員を目指す上で、応募書類の準備と応募時期の見極めは非常に重要です。必要な書類の確認や応募スケジュールを把握し、適切なタイミングで行動することで、公募での成功率を上げることができます。

応募に必要な書類

大学教員の公募では、以下の書類が一般的に必要とされます。募集要項をしっかり確認し、書類の準備を進めましょう。

  1. 履歴書
    専用のフォーマットが指定される場合があります。記載内容に漏れがないよう、最新の情報を反映させましょう。
  2. 教育研究業績書
    自分の研究実績、教育経験を具体的に記載します。大学側でフォーマットの指定があり、記入例が示されることが多いです。記入例がない場合は、他大学の記入例を参考にしましょう。
  3. 志望理由書
    応募する大学やポジションに特化した内容を盛り込むことが重要です。求人だけでなく大学側のホームページを必ずチェックし、求められる人物像を押さえた上で自分を売り込んでいきましょう。

公募によっては追加で以下の書類が求められる場合があります。

  • 推薦書や連絡を取れる人物
    大学院での指導教官や勤務先の管理職に依頼することになります。準備が大変なので余程マッチした求人でなければパスしてもOKです。
  • 職務経歴書(CV)
    民間の転職活動ではお馴染みですが、公募でも求められる場合があります。提出する場合は民間の例に沿って作成しておけば大丈夫です。

応募する時期 秋の公募がチャンス

公募は年間を通して行われていますが、特に秋は中規模から小規模の大学にとって重要な時期です。このタイミングを見逃さないようにしましょう。

なぜなら、春から夏にかけては大規模大学の公募が活発ですが、そこで決まった異動に伴う欠員補充として、秋に中規模・小規模大学の公募が増える傾向があるからです。

春・夏の公募で応募者が大規模大学に流れることで、秋の中規模・小規模大学の公募では競争率が比較的下がります。

また、秋の公募で採用が決まった場合、現職場に退職の意向を伝えるタイミングとしても適しています。年内に退職の意向を伝えることで、管理職や同僚との調整がスムーズになりやすいです。

面接に備える

大学教員としての面接は、専門性や教育理念を伝える重要な機会です。しかし、実際には「減点されないこと」が大切です。面接での大きな失敗を避けることで、有力な候補者としてリストに残ることができます。ここでは、面接に備えるための「減点されないためのポイント」を中心に解説します。

自己紹介と教育歴の説明準備

面接の冒頭で必ず求められる自己紹介や教育歴の説明は、あなたの第一印象を左右します。ここで「減点されない」ためには、準備を怠らず、簡潔かつ明確に話すことが大切です。長々と話すことで話がまとまらないと準備不足、授業でも説明が下手と思われかねません。

人柄での減点を避ける

挨拶をしっかりする、人の目を見て話す、身だしなみが整っているなど、社会人としてのビジネスマナーで減点されるのは避けたいところです。仕事中にコミュニケーションが取れるかどうかも重要です。ビジネスマナーが良かったり、コミュニケーション力があるだけで採用とはなりませんが、逆はあり得ます。不安要素は取り除いておきましょう。

教育理念と指導方法の明確化

大学教員としての役割の中で教育は非常に重要です。面接で「自分の教育理念や指導方法はどうか」と尋ねられることがよくありますが、この質問においても「減点されない」ようにするためには、大学の指導方針と一致させましょう。

その上で、一貫性を保ち、自分の教育理念や指導方法について矛盾しないように話すことが大切です。「学生主体の授業を行いたい」と言いつつ、過去の経験で一貫性がない場合、面接官は懐疑的に感じてしまいます。

「出来ない」と言わない

教育重視の採用の場合、担当科目は多岐にわたる可能性があります。その中には、自分の専門外の内容や実務経験のない科目が含まれている可能性もあります。

専門外の科目は「指導できない」と言いたくなりますが、大学側としてはこれまでの業績を見て、指導可能だと判断しているから面接のオファーを出しているわけです。自信を持ちましょう。

多くの場合、前年度のシラバスがあり、教科書も明記されています。初年度は前年の担当者をトレースする形で授業していきましょう。

逆質問は今後に繋げる絶好の機会

面接の終わりに「何か質問がありますか?」と聞かれることがあります。基本的には、他の面接官に対する「これで面接を終わります」と告げる終了の合図です。ですが、受験者側としては、面接を通して、至らない点や不安に感じた点を聞くことがおすすめです。もし採用となれば、その部分に力を入れて取り組むようにすればいいですし、採用とならなかった場合でも自分のキャリアをどのように形作るかのヒントになります。

就職後のキャリア

大学教員のキャリアは、講師(助教)→准教授→教授の順です。研究重視のポジションであれば査読付き論文を中心とした実績によりますが、教育ポジションの場合は教育歴(=在籍年数)によるところがあります。

一つの目安としては、文部科学省の2015年のデータでは、助教は30歳半ば、准教授は40歳半ば、教授は55歳以上となっています。

文部科学省「研究者のライフステージについて」(PDF)

公募戦線に関するウェブサイト・書籍

大学教員の公募では、ほとんどのケースで「募集定員は1名」であり、そこに多くの人が応募します。 高い競争倍率から、若手研究者が公募に挑む様は“公募戦線”と表現されることがあります。公募に挑む様子がわかるウェブサイトと書籍をご紹介します。

公募戦線の記録(外部サイト)

書籍: 61戦1勝60敗、公募ってどうやって勝つの?

公募戦線の書籍は複数ありますが、そのほとんどが2010年代初頭に書かれたもので、情報が古くなっています。本書は2023年に執筆されており、最新情報がわかります。Kindle Unlimited読み放題に対応しています。

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