実は英検1級・英国修士(TESOL/英語教授法)、現役英語教師のASAKOROKOです。
今回は教材研究・教科書分析・授業準備がテーマです。教材研究は英語圏でも行われていて、英語では Materials Development と言います。
この記事では、世界的にこの分野をリードしている Brian Tomlinson 氏と Hitomi Masuhara 氏の研究などを参考に、日本の教育現場における教材研究のプロセスを解説していきます。
なお、中学校・高校における授業づくりについては、Udemyでも講座にしています。授業づくりのポイントをコンパクトに知りたい方にオススメです。
- 指導コンテクストを把握する(学習者のニーズ、コース目標はなにか)
- 改善が必要な理由を特定する(教材と目標のズレ、教材と生徒のズレ、教材と指導理論のズレに着目)
- 現状の教材を評価する(分析→評価)
- 改善の目的を書き出す
- 改善を行う(追加・削除・修正)
- 指導と再考を繰り返す
1. 教材研究とは
教材研究は、指導目標と教材、教材と生徒を結びけるマッチングプロセスです。
そのため、教材研究をするには、指導目標と生徒についての理解が必要になります。
⑴ 学習者のニーズをつかむ
生徒が学習に求めるものを考えてみましょう。
【学習ニーズの例】
- ひとりで海外旅行に行けるようになりたい!
- 英語でALTと話せるようになりたい!
- 志望校に合格したい!
- 将来の夢や目標を叶えたい!
- 英語なんて勉強したくない?(ニーズなし?)
学習ニーズが異なれば、学習方法が異なりますし、好みの学習スタイルが異なることも想定されます。
生徒にアンケートを実施してみるのも効果的です。嫌というほど現実を直視させられます…。
⑵ 指導目標をはっきりさせる
学習指導要領や学校教育目標、学習者のニーズから指導目標を設定していきます。次の2つの視点から考えてみましょう。
①逆向き設計の視点(トップダウンの視点)
卒業時に求める資質や能力から、2年次>1年次後期>1年次前期…>単元目標>本時の目標というように逆向きに設計します。
卒業時をゴールとし、各学期や単元の目標はチェックポイントになるイメージです。
②現状から考える視点(ボトムアップの視点)
逆向き設計の視点(トップダウン)で組み上げた指導目標が、生徒たちの現状に照らし合わせて実現可能なのか考えます。
必要であれば、指導目標や指導計画を修正しましょう。
2. 改善が必要な理由を特定する
指導目標と生徒についての理解が深まると、教科書が使いづらく感じるようになります。
なぜなら、教科書は全国の一般的な生徒を想定して作成されているので、自校の指導目標や生徒とマッチしないからです。
そこで、教科書とのズレを解消していく作業が必要になります。ズレは3つあります。
⑴ 教材と目標のズレ
真っ先に考えるべきは、教材と指導目標のズレです。
例えば、リスニング力を伸ばすという目標を立てたのに、リスニングが全くない教材では意味がありません。
個人的には、目の前の教科書や副教材がなかったとして、目標達成のためにどのような指導が必要になり、そのためにどのような教材が必要かを考えることをオススメします。
そうすることで、教材と目標にズレに気づきやすくなります。
⑵ 教材と生徒のズレ
生徒のニーズと教材のズレがないかもチェックポイントです!学習ニーズと教材の不一致は生徒のやる気を消滅させます。
目の前の生徒に対して教材が難しすぎる、簡単すぎる場合は調整が必要です。
教材が難しすぎる場合
教材が難しすぎる場合には足場作り(scaffolding)で対応します。クラス全員にとって難しすぎるのか、一部の生徒にとって難しすぎるのかでも対応が変わります。
クラス全員にとって難しすぎる場合は教材そのものに手を加えるか、全体に対して指示を増やす必要があるでしょう。
一部の生徒にとって難しすぎる場合は、個別指導で必要となる手立てを考えた方が効果的かもしれません。
教材が簡単すぎる場合
教材が簡単すぎるかどうかを見極める一番わかりやすい指標は時間です。
教材が簡単すぎる場合、多くの生徒が時間を持て余す結果になりがちです。早く終えた生徒が何をするべきなのか考えておくことも必要になります。
⑶ 教材と教育理論とのズレ
教科書の指導法は必ずしも研究成果を反映していません。というよりも、研究成果があまりに反映されなさすぎて問題になってしまうほどです。
その結果、皮肉にも教師には教育研究への理解が求められます。
3. 教科書を分析・評価する
教材の分析を行い、分析をもとに評価を行います。
評価と分析は似ていますが、厳密には違います。評価は判断を下す行為であるのに対し、分析は教材の特徴を捉える行為です。
よりよく教材研究を進めるには、評価と分析を切り離して考えていきます。
⑴ 教材を分析する(チェックリスト)
指導目標や学習ニーズから教材に求める条件を書き出し、チェックリストを作ります。
例えば、リスニング問題に求める条件を書き出してみます。
- リスニング問題(音声ファイル)があるか
- スクリプトが用意されているか
- 未習の文法や表現が混じっていないか
- 早すぎたり、遅すぎたりしないか
リストが出来上がったら YES / NO でチェックしていきます。
⑵ 教材を評価する(何が問題か判断する)
チェックリストの結果をもとに、指導目標を達成できるか、生徒のニーズは満たしているか、レベルは適切か、研究成果を踏まえているかなどの視点で考えていきます。
例えば、先ほどの例では「未習表現が多く、難しい」といった評価が考えられます。
分析と評価は同じではないのか?
いいえ。分析と評価は異なります。分析は客観的で、誰が行なっても同じです。評価は、主観的な判断で、人によります。例えば、同じ分析結果を見ても、ある先生は問題に感じる一方で、別の先生は問題に感じないかもしれません。
なぜわざわざ分析を行うのか?
チェックリストにして分析を行うことで、改善のポイントが明確になります。経験豊富な教師は無意識にこれらを行いますが、書き出すことで思考が整理されますし、他の教師との話し合いも可能になります。
4. 改善の目的を書き出す
分析と評価をベースに改善の目的や方向性を書き出していきます。これまでのプロセスが出来ていれば難しいことはありません。
例えば、評価段階で「未習の語彙が多すぎて難しい」としていれば、改善の目的は「未習の語彙を取り除く」というように半ば自動的に決定されます。
5. 改善を行う
改善の目的が決まったら、実際に教材に手を加えていきます。ここでは、改善の方法とプロセスについて解説します。
⑴ 教材を改善する方法
改善はクリエイティブなプロセスですが、大きく3つの方法があります。
①教材の追加
- 追加:異なる教材から演習問題を持ってきたり、活動を追加したりします。
- 拡張:演習問題の量を増やしたり、活動の難易度を上げます。
②教材の削除
- 完全削除:演習問題や活動を完全に削除し、スキップします。
- 部分削除:演習問題や活動の一部を削除します。
- 縮小:演習問題の量を減らしたり、活動の難易度を下げます。
③教材の修正
- 修正:活動の指示を変更します
- 交換:ある活動を他の活動と取り替えます
- 再編成:テキストやイラストの記載位置を変更します。
- 順序変更:活動の順番を変更します
- 変換:演習問題の形式を自由記述から選択式に変更したり、媒体の変更を行います(紙からデジタルへ)
⑵ 改善のフローチャート
教科書に掲載されている活動を教室で使うかどうか判断する際のフローチャートが、 Cunningsworth (1995) に掲載されていたので引用します。
実際には、さらに生徒とのマッチングを考慮する必要が生じてきます。
6. 指導と再考
教材を改善したら実際に指導し、振り返りを行います。次年度も同じ教材を利用したり、複数のクラスを指導している場合には、付箋程度でもメモ書きをしておくと役立つことがあります。
7. 結論
まとめると、教材研究の手順は以下の通りです。
- 指導コンテクストを把握する(学習者のニーズ、コース目標はなにか)
- 改善が必要な理由を特定する(教材と目標のズレ、教材と生徒のズレ、教材と指導理論のズレに着目)
- 現状の教材を評価する(分析→評価)
- 改善の目的を書き出す
- 改善を行う(追加・削除・修正)
- 指導と再考を繰り返す
個人的には、教師としての成長を止めないためには、2 ⑶ 教材と指導理論のズレが重要だと考えています。
教育理論のアップデートを続ける限り、教師としての取り組みに終わりはありません。
教材研究の方法や指導理論を学ぶには?
教材研究の方法や指導理論を深く学ぶには、大学院やCELTAなどの資格取得といった方法があります。教材についても学びますし、指導理論のアップデートもできます。
研究者を目指す方は大学院、実務家としてスキルアップを目指す方はCELTAなどの資格取得がおすすめです。
CELTAや大学院は、費用や時間の都合がつかないという方には、Diploma in TESOL のコースがおすすめです。CELTAと同じ英国資格枠組みレベル5認証の資格で、自分のペースで学習できます。費用は230ドル前後です。
もっと気軽に、実務に直結するスキルを磨きたい方は、Udemyの講座がオススメです。Chat GPTを使って授業づくりや考査作成にかける時間を短縮する方法についても解説しています。ぜひご検討ください。
References / Further Reading
- Cunningsworth, A. (1995). Choosing your Coursebook. Oxford: Macmillan Education.
- Tomlinson, B. & Masuhara, H. (2004). Developing Language Course Materials. RELC Portfolio Series 11. Singapore: SEAMEO Regional Language Centre.
- Tomlinson, B. & Masuhara, H. (2017). The complete guide to the theory and practice of materials development for language learning. Wiley-Blackwell.