英検1級、英国修士(TESOL/英語教授法)、英語教師のASAKOROKOです。
2020年から学習指導要領で「やり取り」の指導が求められるようになったこともあり、ペアワークは英語の授業になくてはならない存在となりました。私自身も、ペアワークをかなり取り入れて授業をしています。
当たり前の活動となったペアワークですが、改めて考えてみると、実はとても奥の深い活動です。上手に活用できると、生徒のやる気や授業の雰囲気を大きく変えることもできます。
この記事では、ペアワークのメリット、指導のコツや上手く行かない時の対処法、活動例、注意点を解説していきます。
授業づくりについては、Udemyでも解説しています。
Chat GPTを使って授業準備や考査作成にかける時間を短縮する方法も紹介しています。
ペアワークのメリット
英語のペアワークには、以下のようなメリットがあります。
- スピーキングの機会が増える
- 人間関係の構築ができる
- 安心感が生まれる
- 動機付けが高まる
- 学び合い・教え合いの機会ができる
- 視野が広がる
①スピーキングの機会が増える
ペアワークを取り入れることによって、集団指導においてもスピーキングの機会を確保することができます。
スピーキングはさらに「発表」と「やりとり」の2つに分けることができます。発表はスピーチやプレゼンなど事前に原稿を用意する活動で、やりとりは即興での会話です。
即興での会話は、回数を重ねるごとにスムーズにできるようになってきます。同じトピックで相手を変え、何度も挑戦させるのも効果的です。
②人間関係の構築ができる
教師主導の授業では、教師と生徒との人間関係は出来ても、生徒同士の人間関係が希薄になりがちです。ペアワークを取り入れることで、生徒同士の関係性を持たせていきましょう。
ふだん話をすることのない生徒同士でも、授業という枠があることで関係が成立します。ペアワークは学級経営的な側面からもオススメです。
③安心感が生まれる
クラスの前でいきなり発表させられるのは、誰しもプレッシャーに感じますよね。指名する前にペアワークを挟んでみましょう。ペアでお互いに確認してからなら心理的なハードルも下がります。
④学び合い・教え合いの機会ができる
ペアワークは、学び合い・教え合いの機会でもあります。クラス全員の前で教師に質問するのは難しいですよね。ペアワークの方が心理的なハードルが下がり、聞きやすいです。
ペアのどちらもわからない場合でも、自分以外にもわからない人がいることで、教師への質問もしやすくなるようです。教師側としては、あらかじめペアで相談させることで質問の数が減るので、本当に支援が必要な生徒に集中することができます。
⑤動機付けが高まる
心理学研究では、動機付けを高める要因として「自己決定」「有能性」「関係性」の3つが指摘されています。ペアワークには「関係性」を高める効果が期待できます。一人で取り組むのではなく、他者との関わりの中で学びを深めることで内発的なやる気を高めます。
⑥視野が広がる
ペアワークには視野を広げる効果があります。ライティングなどで書くことがないと悩んでいる生徒がいるようであれば、事前にペアワークを入れるのがオススメです。視野が広がり、書く内容が見つかります。
意見交換を行うようなペアワークの場合は、他者の意見を聞くことで自分とは違う考えに気付いたり、認め合えるようになります。すぐに目見えて効果が現れるわけではありませんが、継続的に指導することで効果が期待できますよ。
ペアワークのコツ
ペアワークをより効果的に、スムーズに進めるためのコツは以下の5つです。
- 役割と流れを決める
- インフォメーション・ギャップを作る
- 活動をパーソナライズする
- 時間で区切る
- 競争要素を取り入れる
①役割と流れを決める
ペアワークでは、最初に役割と流れを決めるとスムーズです。単に「話し合ってください」と言ってしまうと、どのように進めたらいいのかわからず、時間がかかる原因になります。
そこで、左側の生徒が質問する、右側の生徒が答える、終わったら交代する、など役割と流れを伝えるようにしましょう。生徒が活動に慣れるまでは、板書しておくとさらにスムーズです。
②インフォメーション・ギャップを作る
ペアワークでは、可能な限りインフォメーション・ギャップを作りましょう。インフォメーション・ギャップは情報格差のことです。ペアの片方だけが知っている情報があるからこそ、コミュニケーションとして成立します。
インフォメーション・ギャップを作り出す最も簡単な方法は、このあと解説する活動のパーソナライゼーションです。
③活動をパーソナライズする
ペアワークでは、活動のパーソナライゼーションを意識しましょう。パーソナライゼーション(個人化)とは、決まりきったやり取りではなく、自分の意見を言う活動のことです。
自分自身について話をさせることで、活動に対する意欲も高まりますし、相手のことをもっと知りたいと思えばよりリアルなコミュニケーションに近づきます。
④時間で区切る
ペアワークは、終了までにかかる時間がペアによってまちまちです。早く終わるペアもあれば、時間のかかるペアも出てきます。全員が終わるを待つのは現実的ではないので、教師側でどこかで区切りをつけましょう。
区切り方は2通りです。1つは、クラスの中で一定の割合が終わりに達したところで全体を打ち切る方法です。
もう1つは、制限時間を与え、制限時間中は活動を継続させる方法です。長時間に渡って会話を継続するのもスキルの1つなので、やりとりのトレーニングとしてもオススメです。
⑤競争要素を取り入れる
インフォメーション・ギャップが作れない、パーソナライズもできない場合は、活動に競争要素を取り入れられないか考えてみましょう。
例えば、ペアでの音読活動では単に読んで終わりではなく、ペアより先に読み終えた方が勝ちというルールを作るだけでも意欲的に取り組むようになります。
ペアワークの例
① Small Talk
スモールトークとは、教師の話を聞いたり、ペアで自分の考えや気持ちを伝え合ったりする活動です。
好きな食べ物やスポーツ、行事や長期休暇の予定や思い出など、生徒が興味関心のある身近な話題について、自分自身の考えや気持ちを伝え合います。
教師の手本があることで、生徒は活動に必要な表現を知ることができます。授業の導入で行えば、英語を話す雰囲気づくりにもなるのでオススメです。
詳しくは別の記事で解説しています。
②Question&Answer
スモールトークの発展版です。いくつか質問の書かれた用紙を配布し、ペアの片方に質問させます。もう片方はひたすら答えます。
初級の学習者は会話の継続が難しいので、質問の数を増やすことでスピーキング時間を確保していきましょう。生徒が慣れてきたら、2文以上で回答させたり、質問を自作させたり、活動の幅を広げていくことも可能です。
質問の例(CEFR A1レベル)
- What do you like to do for fun?
- Can you talk about your hometown?
- What is your favorite type of food?
- What is your favorite season and why?
- Can you tell me about your best trip or holiday?
- What is your favorite animal and why do you like it?
- Can you tell me about a regular day in your life?
- What is your favorite type of music and why do you like it?
- What do you think is the most important thing in life?
- Can you tell me about a friend who is important to you?
③カンバセーション
テーマを与え、生徒に話し合いをさせる方法です。この場合も最初の発問は与えた方がスムーズに進むケースが多いです。
スムーズに回答できない生徒が多い場合は事前にテーマについて紙にまとめさせるのも効果的です。
表を使って情報を整理させる例
④マインドマップ
ペアでの会話に取り組ませる前に、マインドマップを使って思考を整理させる方法です。
マインドマップにさらに情報を書き足す時間を設けると、さらに活動の難易度を下げることができます。
マインドマップの例(最高のエンジニアは誰?)
⑤ピクチャー・ディスクリプション
ペアの片方に写真やイラストを与え描写させます。もう片方は説明を聞いて、イラストを描きます。
イラストを描かせるのが難しい場合は、あらかじめ写真を複数用意し、選択させる方法もあります。
⑥Vocabulary Guessing
ペアの片方が英単語の意味を説明し、もう片方がどの単語か推測する活動です。
単純な活動ですが、語彙の定着に効果的ですし、教師側の準備負担も少なくて済むのでオススメの活動です。
⑦Show & Tell
テーマに沿って生徒に写真を用意させ、写真を見せながらテーマについて話す活動です。例えば、「最高の瞬間」といったテーマを与え、実際に写真を見せて語ります。イメージとしては、スマホ写真を他人に見せて話をするのに近いです。
写真を使うのが難しい場合は、イラストを描かせるなどしても代用可能です。
⑧Find the Gap
ペアで間違い探しをします。ペアのそれぞれに微妙に異なるイラストを配布し、話し合わせます。初級クラスで実施する場合は、単語や説明の際に使う構文を事前に指導しておきましょう。”There is/are~”構文を指導する際に特に相性が良いです。
⑨タスク・ロールプレイ
タスクやロールプレイは自由度の高い活動です。ペアそれぞれに場面や役割の書かれた用紙を渡し、役割を演じさせます。
難易度の高い活動なので、事前にモデルを見せたり、活動後のまとめを全体で行い、表現を確認するなど配慮が必要です。
⑩リテリング
リテリングとは、読んだり聞いたりした話を自分の言葉に直して話す活動です。インプットからアウトプットへ、技能を統合する形で行えます。
非常に効果の高い活動ですが、難易度も高いです。リテリングの前にパラフレーズやサマリーを行うなど、段階を踏んで指導していきましょう。
詳しくは別記事で解説しています。
11. ジグソーリーディング
ジグソーリーディングは、グループやペアで行うリーディング活動です。それぞれのメンバーが異なるテキストを読み、情報を統合してタスクに取り組みます。
リーディングからスピーキングへと技能統合ができる点でリテリングと共通しています。
ジグソーリーディングの指導方法や教材作成については、別の記事で解説しています。
ペアワークがうまくできない時の対処法
ペアや活動内容による問題
ペアを組み直す
英語の苦手な生徒同士がペアになってしまうと、そのペアだけ全く活動が進まないという事態が発生します。
生徒の英語力を把握した上でペアをコントロールできるのがベストですが、難しい場合は頻繁にペアを変えましょう。
活動内容を見直す
活動が難しすぎる場合は、ペアワークにしてもうまくいきません。事前の準備活動を増やすなど、足場作り(Scaffolding)を検討しましょう。
自己紹介活動を入れる
初対面の生徒が多くなるような場面では、ペアワークの前に簡単な自己紹介活動を入れると、生徒同士の関係性がよくなり、活動がスムーズになります。大人は自発的に挨拶することが多いですが、学生相手の場合は配慮が必要かもしれません。
ペアワーク固有の根本的な問題
指導と評価が乖離しやすい
ペアワークを多く取り入れる場合は、評価との乖離を防ぐ手立てが必要です。理想はパフォーマンステストです。
指導と評価が乖離してしまうと、生徒は「一生懸命授業に参加しても、結局評価には反映されない」と感じてしまいます。これでは、ペアワークをすればするほど批判的な生徒が増えてしまいます。
評価と一体化させればすぐに解決するので、評価方法についての見直しがおすすめです。
流暢さは伸ばせても、正確さを伸ばしづらい
スピーキング力は、基本的に「正確さ」と「流暢さ」から成り立っています。正確さは間違いのない英文を生成する力、流暢さは言い淀みなく滑らかに発話する力です。
ペアワークで伸びるのは流暢さです。流暢さは練習すればした分だけ伸びていきます。一方で、正確さも含めて総合的に実力を伸ばしていくには、教師によるインプットやフィードバックが欠かせません。
日本の中学校や高校では、指導人数が多すぎて、生徒の発話に対して十分なフィードバックが行えません。正確さを身につけさせるには別に活動が必要です。
専門的に学ぶにはCELTAがオススメ
ペアワークをはじめ、生徒中心のコミュニカティブな授業づくりを専門的に学んでいきたい方には、CELTAなどの国際的なコースがおすすめです。大学院より実践的に学ぶことができるのが特徴です。
CELTAは2020年からオンラインでも受講できるようになり、働きながら学ぶことも可能です。
イチオシはCELTAですが、スケジュールや費用の面で難しい場合は、Diploma in TESOL もオススメです。CELTAと同じ英国資格枠組みレベル5認証のコースもあります。
日本の中学校・高校の授業に特化して学ぶなら Udemy の講座がオススメです。実践的で、Chat GPT を用いて授業準備・考査作成にかける時間を極限まで短縮する方法についても解説しています。
どの講座も授業力アップにつながるので、検討してみるのがおすすめです◎