この記事では、教育実習は教員にならないのに行っていいのか?という疑問について、受け入れる教員側の視点で答えていきます。
結論としては、全員が納得できるのは次の場合のみです。
① 教員を志望している人が、教育実習に行く
② 教員を志望しない人が、教育実習に行かない
それでは、教員にならない場合の対処法も含めて見ていきましょう。
1. 受け入れの可否
制度としては教員採用試験の受験は教育実習の要件ではありませんので、教員にならないことは何の問題もありません。
その上で、教育実習の受け入れ可否を決めるのは管理職(校長・副校長・教頭)です。
一般の教員が意見するようなことはまずありません。
職員会議で誰がいつから来るのか、誰が担当するかなど事務的な情報が知らされるだけです。
加えて、よほど希望者が多い場合を除いて実習を断るようなことしません。
セレクションを行う場合でも方法は学校によって違いますし、志望理由だけでなく学年や教科等も考慮され、総合的に決定されます。
2. 受け入れる教員の心情
これまで担当してきた実習生の中には教員になった人もいますが、民間に就職した人もいます。
卒業後の進路と受け入れる教員側の心情についてパターンごとにまとめていきます。
⑴ 実習後に民間を決意
教育実習に来ていた段階では教員志望ということだったが、その後に民間での内定が決まったというパターンです。
正直、よくあることです。
実習に来ても教員にならない人の方が多いです。
最初から教員になるつもりはなかったのかもしれませんし、教員になるつもりで実習に来て結果的に進路変更を決めたのかもしれません。
実際そのケースもありますし、教員なら大学時代にそういう知り合いもいたはずなので驚きはしません。
その学生の進路選択に役立てたのであればそれでいいという気持ちと、教員になってもらえなかったという少し残念な気持ちが入り混じります。
特に周りの教員でも何か言うような人はいませんでしたが、民間に内定があったのでは?という勘繰りは当然あります。保護者や生徒から情報が入ることもあります。
⑵ 実習とは違う校種を受ける
高校で実習して中学校を受験したりするパータンです。
全然ありです。
教員の中には免許を複数持っている人も多いです。そういう人は複数校で実習していたりするわけで。
自治体によっては希望する校種で採用にならないこともありますし、どの校種が合うかはやっぱり実習に行ってみないとわからないです。
小中高だけでなく、幼稚園や社会教育系も受け入れられると思います。
⑶ 民間に内定してて実習に来る
民間に内定があって実習に来るパターンです。
なんで実習に来た?
これは群を抜いてイメージが悪いです。
正直、実習に来る前から「何しに来るんですかね?」みたいな会話が教員間であります。
実習生の前で教員が気持ちを見せることはないと思いますが、実習中はずっと根にもたれていると思った方がいいです。
母校実習で、学生時代から知っている先生だったとしてもです。
高校に勤めていたので実習生を知っている先生も多かったのですが、それでも特に誰も理解を示すような発言はしませんでした。
それどころかこの手の話題は飲み会の席まで引きずられます。
彼はなんで実習に来たんですかね?
そんなの知らないですよ。私に聞かないでください。
嫌なら先輩、教務部長なんだから断ってくださいよ。
いや、決めるの管理職だし…
3. 民間に就職する場合の対応策
⑴ 実習時に就活が解禁していない(学部3年以下)
実習時に就活が解禁していない学部3年以下の場合は、「教採に向けて準備をしているが、まだ迷っている」というのは理解を得られる可能性が大きいです。
教員を視野に入れており、職業選択の糧になるのであればそれでいいと思ってくれる教員は多いはずです。
なにも受け入れる側だって「何が何でも教員になれ」と押し付ける気はないのです。
そういう意味では、低学年で実習に行ければこの問題からは距離を置くことができます。
⑵ 実習時に学部4年 民間就職を素直に伝えるパターン
先ほど見たように最も理解が得られないパターンです。
実習中のハードルが高くなります。
実習中に失敗があっても、教員を志望している限り「教員になったら気をつけなよ」とか「同じミスしないようにね」という形で収まります。「実習中に経験できてよかったじゃない」とフォローしてくれる人もいます。
民間への就職を伝えた段階で、実習生に対するこうした気遣いやフォローはすべてなくなります。
しかも何一つミスなく実習を終えることは不可能ですし、受け入れに伴って業務が増えている以上、実は実習自体がマイナスからのスタートです。
では、実習生が受け入れに伴う負担以上の働きができるかというとそうは思いません。これは教育効果の話ではありません。教員が、実習生が来てくれて業務が楽になったと思うか、受け入れで業務が増えたと思うかという問題です。
ふつうの教員であれば、たとえ時間講師であったとしても戦力になるので、受け入れで書類仕事が増えたとしても担当者も含め納得がいくものです。実習生は残念ながら1人で何かを受け持つことはできないので、民間就職を決めている実習生の受け入れを負担した教員が報われたと思うことはありません。
実習生としては「これからの会社業務で実習での反省を生かし…」云々と述べるのかもしれませんが、教育実習はそういう場ではありません。就職セミナーでやればいいだけの話です。「民間を経てからいずれ教員に…」というのもどうして民間に一度行くのか説明するのは難しいと思います。
●民間就職を実習校の生徒にも伝えるとどうなる?
当然、生徒側も理解に苦しみます。「教員にならないのなら、教員免許状はいらないのでは?」というのがおそらく彼ら彼女らの素直な疑問です。それでも実習生が生徒みんなから好かれるようなタイプなら荒波もたたずに収まります。
しかし、実際にはそれはレアなケースにならざるを得ないと思います。実習生が子どもたち全員との関係を完璧につくって、授業も何一つ文句がない出来というのはかなり難しいです。実習期間は短いので尚更です。
中には「指導教官のいつもの授業の方がわかりやすかった」という感想を持つ児童生徒もいるはずです。そうなると生徒としては「教員にならない人の授業をなんで私たちが受けて、わかりづらい思いしないといけないの?絶対次のテストの点数悪くなる。隣の○組みの方が有利じゃん」となってきます。
こうなると板挟みにされるのは指導教官です。「なんで受け入れた?」と生徒から詰め寄られます。場合によっては保護者とも「学校としても実習についてもうちょっと考えてもらった方が…別に先生を責めてるわけじゃないけど…」みたいな会話になりかねません。
⑶ 実習時に学部4年 民間就職を伝えないパターン
実習中のハードルは下がります。
実習中に上手くいかない場面があっても「教員になったら頑張ってね」で収まるようになります。本来の実習の形式とも言えます。
民間での就職がバレるか気がかりだと思います。結論から言えば、誰か1人にでも言った段階でバレると思った方がいいです。実習校の管理職も例外ではありません。
具体的には以下の人たちに伏せる、ないしは口止めすることになります。
- 生徒
- 管理職含め教員全員
- 他の実習生
- 保護者
- SNS
- ゼミの指導教員(実習校への訪問がある場合など)
学校の情報網は侮れません。誰か1人にでも漏れ伝わると、あとは時間の問題です。
学校の情報が、学校から生徒、生徒から保護者へと伝わるように、そのまた逆もしかりです。最終的に実習校の教員のうち誰か1人でも知り得れば、職員室全体に広がります。
さすがに管理職はそれはしないでしょと思うかもしれませんが、甘いです。教員は業務上知り得た事柄に関して守秘義務がありますが、教員全員に守秘義務が発生しているので教員間で情報をやりとりしても理論上問題ないことになります。
よって、伏せるのであれば徹底的に伏せるしかないことになります。
いつまで伏せるかですが、教員採用試験の結果発表後であれば「教採ダメで民間に流れた」と理解してもらいやすくなります。
ちなみに内定を伏せて「教採受けます!」と言っていると「面接練習しようか?」という申し出があったりします。管理職からです。採用試験受ける人からすれば本当にありがたい話だとは思いますが…。
4. 教員にならない実習生の受け入れはメリットなし?
⑴ 教務担当教員の立場
教務担当の教員からすると、実習生が教員になろうが民間へ行こうが実習生の受け入れで直接的なメリットは発生しません。
むしろ、実習生との打ち合わせや管理職への説明、時間割の調整で仕事は増えます。
実習生からするとあまりピンとこないかもしれませんが、教育実習で一番の負担を感じるのは教務です。
教務担当の立場で苦労が報われたと思えるのは、実習生が教員になったと聞いた時に限られるように思います。
⑵ 学級担任・教科担任の立場
実習生からすると一番迷惑をかけているように思う学級担任・教科担任の先生ですが、実際にはメリットも享受しています。
実習生が観察期間を終え、学級や授業を受け持ってくれるようになるといくらか楽になります。
授業後の実習生への指導などで時間は取られるものの、授業準備をしなくてよくなります。といっても、現場の教員はおそらく5〜15分あれば授業準備を終えられます。
自分で授業をした方が早いのは言うまでもありません。
加えて、実習日誌に目を通してコメントを書く作業も増えています。実習日誌の提出が遅れるのはよく聞く話で、私も経験しています。ただそもそも手書きで紙で提出ってどうなのって思いますが…。
⑶ 部活動の顧問
部活に来てくれるのは嬉しい…
実習生が部活に参加する場合、部活動顧問としては喜んで受け入れたいところですが…実際には複雑かもしれません。
というのも、実習生は学級と授業が優先という認識があります。
部活動に参加していて授業準備が出来ていないとか、日誌の提出が遅れるとなると本末転倒と思われる可能性があります。
その場合、矛先は実習生だけでなく部活動顧問にも向きます。
⑷ その他の教員(大多数)
無。
教務でもない、学級も教科も違う、となると直接的な関わりがありません。
もちろん、応援はしています。授業観察を申し出れば快く受け入れてくれる教員は多いと思います。
ただ業務について言えば、特段なにかが増えるわけでもなければ減るわけでもないので。
5. まとめ
教員にならないのに実習に行くと、受け入れる教員や生徒側としては快く思わないでしょう。
逆に民間での就職を伏せると、実習生側としては心苦しいかもしれません。
結局は、教員にならないのに実習に行くと決めた時点で、誰かが嫌な思いをすることは確定しているわけです。
というわけで、教育実習に関わる全員が納得できるのは次の2パターンです。
① 教員を志望している人が、教育実習に行く
② 教員を志望しない人が、教育実習に行かない